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    54.女君出産

    • 2014.11.30 Sunday
    • 18:17
    JUGEMテーマ:古典文学

    54.女君出産

     秋に訪問した以降も薫君は、疎遠と感じられない程度には吉野を訪れていて、それを右大臣は恨めしく思っていましたが、そうこうするうちにあっという間に冬も過ぎて、四の君の出産が間近になりました。

     右大臣は最愛の娘の出産なだけに恐れ危ぶんで、絶えず読経や修法をされますが、左大臣家の方でも誰が父親なのかを不審に思いながらも、「世間の目にはいぶかしく思われる事もないだろう」と祈祷を始めます。これらの祈祷の声が邸内に満ち満ちるほどだった効果もあってか、前々から四の君は気分がすぐれず苦しみがちであったのに、とても安産で、かわいらしい女の子がお生まれになったのでした。

     願っていた希望通り、将来は女としての最高位、皇后になられることが間違いない美しさであったので、うれしい事だと右大臣はお喜びになり、産屋の様子は善美を尽くし、急ぎ支度をなさっている様子は大変なものでした。
     左大臣家からも、産屋の事などにまで気を遣うお祝いの使者がやってきて、その気の遣いようがわずらわしいほどですが、産湯をつかい終えた赤ん坊を、右大臣の奥方などがかいがいしく受け取ってあやしているのを薫君がご覧になると、全く間違いなくあの宰相中将に似た子の顔立ちなので、「やはりそうか」と思い当たり胸が苦しくなります。
    「見知らぬ人ではなく、昔から分け隔てなく、親身に思っていた人と間違いを起こしたのだ。私をどんなに変だとも、馬鹿な奴だとも思っている事か」と、薫君は恥ずかしく憂鬱のあまり、胸が痛くなるほど心が鬱屈してしまいます。

     子を産んだ四の君が、苦しかった名残で、綿などを頭にかぶり窮屈そうに包まれ臥して休んでおられるところに薫君は近づいて、「ちょっと聞きたい事がある」と声を掛けます。四の君はその薫君の声にハッと目を覚まして見上げましたが、並の人では薫君に普通の時にお目にかかるだけでもたいそう気が引けるのに、まして心中に秘密のある四の君ではいたたまれない思いがします。薫君はほほえみを浮かべ、

    「この歌を、どう思いますか?

     この世には 人の形見の面影を 我が身に添へて あはれとや見む

    (表の意味:愛する人がこの世に残した形見であるこの子の面影を、私の側に添えてしみじみと眺めよう)
    (裏の意味:この世にいる限り、他人の形見の面影を持つ子を、自分の子だとしてかわいいと思わないといけないのか)


    とおっしゃいました。四の君は薫君に対する恥ずかしさに、何を口に出すことができましょうか。黙ったまま顔を夜具に隠してしまったのも当然のことです。

    薫君は「あぁ。何はともあれ、自分がこのまま長生きする身であれば、世間の人の見たり思ったりした言葉が四の君の耳に入るんじゃないかと気になるかもしれないが、自分は所詮、このまま長い間俗世にいるつもりはないと割り切ったから全然気にならない。全てはわが身が世間普通ではないという過ちが、言葉にならないほどの尽きせぬ嘆きの種なのだ」と思い込もうとしますが、どうしても涙がこぼれてしまうので、「あれほどお祝い気分で騒いでいるのに、泣いているとは不吉だと見る人もいはしないか」と面倒になり、四の君の側を立ち去ります。
    残された四の君の心中は、たいそう苦しく死んでしまいたいほどですが、他人にはどうしてその苦しみが分かるでしょうか。

    右大臣家は一族揃って喜び合い、右大臣の奥方は産湯の役を、大将の奥方は迎え湯の役などをして騒いでおられるので、薫君の様子を「あれでは無関心すぎる」と目を留める人もいましたが、「人柄からして冷静な人だから、態度も落ち着き、静かにしているのだろう」と多くはみなしていました。

    【解説とツッコミ】
    そうじゃないかと薄々感づいてはいたものの、生まれた子供の顔を見て、父親が宰相中将であると改めて確信する薫君。よりによって、良い友人だと思っていた人が浮気相手だったかと大きなショックを受けます。
    将来の皇后候補だ!と喜びあふれる大騒ぎの邸内と、チクリと胸を刺す和歌を突きつける薫君と四の君との暗いやりとりのコントラストが悲しい。

    ちなみにここから、桑原博史氏の講談社学術文庫版「とりかへばや物語」は第2巻に入ります。
    この本読む時にぜひ気をつけて欲しいのですが、この本はネタバレにとても無頓着です。背表紙と冒頭にいきなり2巻のあらすじが書いてあり、それがうっかり目に入ってしまうとこの後のドキドキが無くなってしまうので十分注意してお読みください。

     

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