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    57.物忌の夜

    • 2014.12.07 Sunday
    • 05:57
    JUGEMテーマ:古典文学

    57.物忌の夜

    宰相中将は、自由に逢う事もままならない、人目をしのぶ四の君との恋の辛さに嘆き沈みながらも、お互いに心も通い合い、折々の機会を逃さない逢瀬に心を慰められています。ただ例の女好きの癖は、四の君に対する愛情は限りないものの、一人に対してのみ、というわけにはいかないでいます。その点は、まじめな薫君が漏れ聞いたならとても具合悪いほどです。

    宰相中将は相変わらず、宣耀殿にいる光君に限りなく心を惹かれていて「人に気を遣わねばならない四の君との恋路の苦しさも、これで慰められることだろう」などと都合のいい事を考えています。そしてそう思いつくと、宰相中将はすぐ光君の侍女を涙まじりにくどき落として、外出を控える忌み日のため光君が女東宮がいる梨壺の部屋に参上しない夜に、どこをどうやったのか宣耀殿に忍び込んでしまったのでした。

    光君は「あきれはてた、とんでもないこと」と思ってすっかり動転しています。とはいえ、高い身分の人らしく思慮深く身を慎んで、あわてて身を動かしたりするような事はしません。宰相中将もこういう毅然とした態度を取られるとうかつに手を出せず、泣く泣く恨み事を伝えるだけでそのまま夜も明けてしまい、人に見つかってしまうのでもう外へ出る事もできないでいます。

    宰相中将も光君も、お互い「困ったことだ」と思いますが、仕方がないので、忌み日である事を理由にして部屋の日除けの布をすっかり下ろし、母屋のすだれも全部下ろしてしまったりして外から様子が見えないようにして、下の方の部屋にいる人をこちらに来ないようにして、事情を知っている2人の侍女だけが困惑しつつ全ての対応を取り仕切っています。
    宰相中将は以前から、評判の高い光君の美貌の話を聞いたり想像したりしていたので、「この機会に光君の顔をとくと拝見しよう」と思うあまり、今はもう万事を忘れて夢中になってしまっています。

    光君の背は小さく、手触りは物足りませんが欠点というほどのことはありません。髪は糸を撚りかけたようにゆったりと豊かで、ようやく思い通りに見ることができた顔は、薫君よりもう少し上品に美しく映えている風で、奥ゆかしく一層優美でした。

    密かに愛し合っている薫君の妻の四の君は、上品でかわいらしく、繊細で親しみやすいタイプで、愛らしさという点でかなう人はいません。一方で光君の方は、美しさが限りなく、目もくらむばかりの輝かしさにかなう人はいません。宰相中将は心の限りを尽くして光君にひたすら恨んだり辛さを訴えたりしますが、常にたおやかに、気品のある優美さを保ち、弱々しげな気配ではあるのに、全くこちらの思い通りになびく様子はありません。

    心を乱し涙を流しつつ、その日も暮れ、さらにその夜も明けてしまいそうなので宰相中将は思い嘆きますが、光君も
    「物忌みの日が終わると父が参りますし、薫君も来られるでしょう。こうしていては困りますので、真実深い愛情をお持ちなら、改めて手紙を送っていただく事にして、ここはお帰りいただけるとどんなに嬉しい事でしょう」
    と言います。その声はわけもなく愛らしさをたたえていて、まったく薫君と同じです。とても不思議で素晴らしくもあり、宰相中将はすっかり聞き惚れてしまい、全く外に出る気分になれません。

     後にとて 何を頼みに契りてか かくては出でむ 山の端の月
    (後で会うと言われても、何を証拠に約束するのでしょうか。このままでは山の端の月のように出ていく事もできません)


    と宰相中将が歌を詠むと、「あまりの仕打ちですよ」とも言い終わらぬうちに光君が

     志賀の浦と 頼むることに 慰みて 後もあふみと 思はましやは
    (志賀の浦に吹く風のようにしょっちゅうお手紙を下さるあなたを頼りにしていますが、それで十分慰められているので、後でもう一度逢おうとは思いませんよ)


    と詠み返し、「あなた、これからをよくお考えくださいな」と愛らしげにおっしゃいます。宰相中将は、これ以上無理押しするのもどうかと思って、心は光君に未練を残しながら、からっぽな体だけで宣耀殿を出て行ったのでした。


    【解説とツッコミ】
    宰相中将めぇッ!!この腐れ外道野郎ッ!!

    「四の君は当然愛しているけど、それとこれとは話が別。この愛情を1人だけに注がなきゃいけないって、誰が決めたの? 全員同じくらい愛してるんだよ。全員愛してるのは嘘じゃないよ。だからいいじゃない。」

    すげぇ・・・こんな言葉を何の疑いも罪悪感もなくサラッと言ってのけるとは。これが一夫多妻制というやつか・・・

    ところが、こんなクソな宰相中将を光君はコテンパンにしてくれるんですね。男らしくて痛快ですね。そりゃそうですね、実際光君は男だからね。

    当時の人々は、今で言う仏滅や大安みたいな吉日・凶日というものを現代とは比較にならないほど重視していました。定期的に「物忌みの日」というのがあって、物忌みの日はこれをしてはいけない、あれをしたら悪い事が起きる、なんて事がうるさく決められていました。で、特に厳重な物忌みの日はできるだけ外出も控えて家でじっとしていないといけません。

    宰相中将はバチ当たりな事に「そんな物忌みの日だったら内裏の中に人もいないだろうからチャーンス!」と光君に夜這い突撃をかけます。光君は内裏の中、言うなればお役所の中に泊まり込みで働いているので人目も多いし、夜這いをかけるといっても四の君の時よりも難しいんですね。

    で、まんまと夜這いは成功するんだけど光君は絶対にスキを見せない。一晩中口説いても全然相手にしない。宰相中将もすげえなと思うけど、それでも全然諦めず2徹で口説き続ける(笑)。アホかお前は。光君もよく2徹で相手してたよね。

    とりあえずお前帰れ、もう物忌みの日も終わって父も薫君も来ちゃうぞ、と光君が言うと、宰相中将は「また会うって言っても何か証拠があるんですか?何か証拠となる物をもらえない限り俺帰れないよ」などとグチグチ粘ります。ところがその歌を詠み終わるか終わらないかってタイミングで光君は即座に

    「いやお前何言っちゃってんの?『また会う』なんて私一言も言ってないからね。手紙で十分。二度と来んな」

    って歌を詠むわけです。しかもこれ、「志賀(=滋賀)」と「あふみ(=近江)」が、「近江国の滋賀」と「会う身」のダジャレになってんですよ。心憎いのは、「お前なんか大嫌い、顔も見たくない」じゃなくて、「しょっちゅう手紙くれるあなたを頼りにはしてるけど、でも会うのは嫌」って一応相手の顔も立てているところ。

    ここまで完璧に気遣いと機転を見せつけられた上でピシャリと「帰れ」と言われたら、2徹までして頑張ったストーカー宰相中将も完全に心が折れたんでしょう。何もせずトボトボと帰ります。いやホント帰れお前。

     

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