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    78.所狭き身〜79.吉野の人々との別れ

    • 2015.01.11 Sunday
    • 22:43
    JUGEMテーマ:古典文学

    78.所狭き身

    四月にもなると、次第に薫君の身重の身体も隠しようがなく、動作も不自由になってきましたが、つとめてさりげなく振る舞っています。忍び歩くのも苦しいような状態ですが、宰相中将の方は、薫君に気安く逢えないのが辛くて
    人目にもつくでしょうに、どうしてまだ男姿のままでいるのですか。見咎める人でもいたらどんなに困る事か。」
    と繰り返し注意してきます。

    宰相中将の父の式部卿宮は、宇治の近辺のご領地にたいそう風雅な邸をお持ちです。そこで宰相中将は、そこに必ず薫君を迎え入れて閉じ込めるつもりでしかるべく準備をしています。そして、なかなか薫君の決心がつかない事を待ち遠しがり恨み事を言ってきます。

    一方、薫君にしてみたら、宰相中将になびく事は良くないと考えてみたところで、ただ身軽な我が身一つだけならばまだ吉野山の宮の元に身を隠すこともできますが、お釈迦様が現世に出現なさったような清らかな宮のお住まいに、妊娠の身を寄せるというのは無神経で不都合な気がします。
    吉野山の宮の姫君たちも、気が引けるほどの素晴らしい方々なのに、彼女たちに正体をお見せして「変だこと。あきれたわ」と思わせてしまうのも気の毒です。

    「そうは言っても、宰相中将が薦める方法以外に他の選択肢も無いんだよなぁ。自分の考えを押し通して、あの男を恨んでよそよそしくして、自分の乳母などにまで出産の処置を任せるというのは恥ずかしい事だよな」と一層思案にくれます。
    「では、どうすればいいのか」と、後日の事、将来のことまで気になってなりません。

    【解説とツッコミ】
    宰相中将の用意する隠れ家以外に選択肢の無い状況。出産も近いしもう時間がありません。
    でもなかなか決心がつかない薫君。



    79.吉野の人々との別れ

    薫君は「身重の体である間は、やはり宰相中将に従って世間を離れ、身を隠すのがよい。この苦しく風変わりな身重の姿を、あの男以外に世話されるのは見苦しい事だろう」と思い直して、身を隠すのはいついつの日と宰相中将と約束しあった後で、まず吉野山の宮に参上してひそかに別れを告げます。
    一度お訪ねしてからというもの、薫君は全て万事細やかに、倉庫の扉も閉まらないほどたくさん、姫君たちの道具まで気づかぬ事なく吉野山の宮に仕送りをし続けていたのでした。

    これほど遠い道のりをわざわざ通ってこられる薫君の様子は、ただでさえ愛情の深さがあり、「あれほど若く華やかでおられる人なのに、めったにない心がけの方だ」と、吉野山の宮も心に深く噛みしめておられます。

    吉野山の宮は今回の薫君の訪問も心待ちにしていて、今はもう全く分け隔てなく、万事うちとけてお話しされます。それに対して薫君も、事実をはっきり明かすのではありませんが、普段よりも深く悩み、心細い心境だと申し上げると、宮は涙をこぼされて
    「いくらなんでも、とんでもない事にはなりますまい。ただほんの少しの間のお苦しみなのです」
    といって、真心をこめて護身の祈祷などをして差し上げます。

    薫君は姫君たちともいつものようにご対面され、しんみりと情緒あふれる事を泣く泣く申し上げては
    この姿を変えても、きっとここを最後の落ち着き場所と頼りにし、お伺いしようと思いますから、その時をお忘れにならないでください。この三ヶ月ほどはお伺いできそうもありません。私が寿命の尽きる運命にあるなら、今回が最後となりましょう。もし意外にも生き永らえる事ができたなら、必ずこういう姿ではなくて、もう少しうとましくなくお思い下さるような姿で再びお伺いするつもりです。」と申し上げなさいます。

    薫君の言う事があまりにも唐突で変なので、吉野山の姫君は「急な話だこと」としばらくは半信半疑でしたが、あきれるほどしみじみと心を込めた薫君の話しぶりに、これは本気だと気づきます。

    姫君たちも前から薫君の事を「それではこの人を、現世で頼るべき人だとお思い申し上げなければ」とお感じだったから、このように裏もなく心細げな薫君のご様子に「一体どうした事か」と心を打たれて悲しく思い、みんな泣いてしまわれました。

    こうしている間でさえ「もう一度父君や母上に姿をお見せし、またお二方のお姿もずっと見ていたいものだ」と思うと、薫君は落ち着いた心もありません。お帰りになる時も、姫君との別れをしみじみ悲しいと思い続けておられます。

    またも来て 憂き身隠さむ 吉野山 峰の松風 吹きな忘れそ
    (必ずもう一度ここへ来て、憂鬱なこの身を吉野山に隠そう。吉野山の峰の松風のようなあなたよ、私の事を吹き忘れないでおくれ)


    という薫君の歌に、姉の姫君は「妙な、いつもと違うご様子だこと」と泣きながらこう歌を返します。

    ほどな経そ 吉野の山の 松風は 憂き身あらじと 思い起こせて
    (あまり時間を置かないでください。吉野山の松風に吹かれれば、憂鬱な事など吹き飛んでしまうと思い出してください)


    どんな姿になろうとも、薫君は自分から約束を違える気はありませんが、しばらくお訪ねできない間の事を案じて、あれこれと細やかに、秋から冬までのご用意を気配りなさるのでした。
    宮は、薫君は口にしませんでしたが薫君の運命を見抜いていたので、丁寧に護身の祈祷をなされ、お薬も献上します。

    【解説とツッコミ】
    ようやく宰相中将に従って身を隠す事を決意した薫君。
    今度は吉野山の宮の所にお別れを告げに行きます。

    ちなみに薫君は姫君に対して「この次はこういう姿ではなく、もう少しうとましくなくお思い下さるような姿で再びお伺いする」って言ってますが、これはどういう意味でしょうか。宮の姫君は「出家した後の僧形でお伺いする」という意味に取ったと思いますが、ひょっとしたら薫君は「女の姿で再びお伺いする」という意味で言ったのかもしれません。

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