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    88.その後の右大将〜89.四の君と権中納言

    • 2015.02.08 Sunday
    • 00:40
    JUGEMテーマ:古典文学

    88.その後の右大将

    宇治に隠れた薫君は、あっという間に二十日以上も経って、どうしようもないまま次第にその状態で落ち着いてくるにつれ、父君母上がご心配なさっている様子を思い浮かべては悲しみ、自身も夢を見ているような気分です。

    たいそう気分がすぐれず苦しかったので、誰にも見られない隠れ家でこのように気兼ねなく安らかに横になっていられるという点だけは、身の休息のためには良い事だといえました。
    そのうち、吉野山の宮からもらった髪が伸びる薬の効き目でしょうか、髪も引き伸ばしたように愛らしく豊かに肩にかかるようになり、眉なども剃り落として、さらに数日が過ぎていきます。

    薫君は女姿がたいそう似合って、もはや女になりきって華やかに可愛らしく、匂い立つような美しさが一層勝っていますが、顔はひどく思い乱れ、屈託し打ち沈んだ表情です。一途に宰相中将を頼みとして一緒に暮らしているうちに、もはや「私はこうしているのが良いのだ」と分かり、親愛感を込めて宰相中将に対している様子は、これがあの右大将だった男の薫君とは思えません。

    薫君が愛らしく弱々しげなのも、すべてが宰相中将の思うままなので、「昔から、寝ても覚めてもこのような人を妻にしたいと思っていたが、仏や神が我が願いを叶えてくださったのだ」と宰相中将は大喜びし、「あらゆる手を尽くして、がっかりしたとは薫君に思わせまい。昔の事は思い出させないようにしなければ」と万事に気を配っているので、だんだんと薫君の心は慰められていきます。

    そのうち、昔知っていた人を挙げて、あの人はああであった、こうであったという話になりました。共に同僚として並んでお仕えしていただけに思い出される事は多く、宰相中将は薫君を身近に引き寄せては
    「その中のどの男が好きでしたか」
    などとからかって聞いてきます。薫君が辛くなって知らぬ顔して耐えて過ごしていると、ちょうど宰相中将のもとにあの左衛門からのお手紙が届きました。
    宰相中将は「薫君には少しも隠し事をするまい」とその手紙を持ってこられ、

    「私としても世間の目や、あなたの父左大臣様のお聞きになる事が、たいそう具合悪く困った事だと思っています。この四の君も実際どんなお気持ちでしょう。私ゆえにつまらぬ身になってしまったと考え込んでおられるとしたら気の毒な事だ」

    などと言います。いずれにせよ、全く世間普通ではない身の因縁なのか、かつて妻だった四の君も薫君自身も男女の仲を乱して酷い目にあっていて、それはこの宰相中将ただ一人の抜け目ない好色さが原因だと思うので、薫君としてはうんざりという気もします。

    「それにしても、宰相中将さえいなければあのまま男姿で変わりなく過ごす事のできた身だった」と薫君は涙ぐんでしまいましたが、それと同時に、ふくれた顔をしたその様子がわけもなく愛嬌に満ちていて目を惹きつけるので、宰相中将としては一瞬でもそばを離れたら平静でいられない心境です。その一方で、四の君がこういう状態でいるのも気にかかるので

    「ただもう、出て行くのは夜の間だけだから」
    といってお出かけになりました。薫君は「心の置き所をどうすればいい我が身だろうか」と、悲しいままにしおしおと泣き嘆いているうちに、日はいよいよ暮れて月が明るく上り、水面も澄み切っているのを見ていると、いろいろな事が数限りなく思い出されてきて、胸からあふれ出る思いです。

     思ひきや 身を宇治川に すむ月の 有るか無きかの 影を見むとは
     (まさかこの身が、宇治川のほとりに住み、川に映る澄んだ月の、有るか無いかというかすかな光を眺めることになるなんて誰が予想しただろうか)


    【解説とツッコミ】
    都合よく独占欲が満たされて幸せ絶頂の宰相中将。
    優しく面倒を見てもらい、少し宰相中将に心を開いたけれども「そもそもコイツがいなければこんな事にはならなかった」という葛藤から決して信頼はしていない薫君。
    そのうち調子こき始めて、ドヤ顔で「昔の同僚のうち誰が好きだった?」とかイラッと来る質問しだす宰相中将。
    もう誰かコイツ殴れ。



    89.四の君と権中納言

    宰相中将は、四の君の所に向かう道中も落ち着いていられず、四の君の面影が身を離れないといった状態で京にお着きになりました。左衛門がまずお目にかかり、事の様子を泣きながら申し上げて、
    「ただあるかなきかの状態で、今はもう最後の息をお引き取りになろうかというご様子です。心細い悲しさを誰に訴えればいいのかとお思いのようです」
    と説明します。その事情もよく理解できるので、宰相中将が「四の君に会わせてくれ」と言うと、左衛門の思慮のない心は、主人である四の君を案じて思い詰めるあまり、感情のままにすんなりと宰相中将を中にお入れします。

    ほのかな灯火の影に、たいそう身の置き所もなく哀れな様子で、四の君は髪を長く横たえたまま、ふっくらとしたお腹を見せて臥せています。その様子を一目見れば、日本ではない外国の武士や陸奥の夷といった人たちでさえ、ひとしおのあわれを感じるに違いないのに、まして宰相中将ほどの愛情を持っている人は、見るなり目の前が暗くなって涙にむせびます。

    四の君に添い臥して、腕をとらえて「ねぇ」と揺すると、四の君はだるげに目を開けて「あぁ困った。つらい愛情関係に苦しんでいるのに、これはどうしたことか。この人との縁がまた始まるのか」と思うと情けなく、息も絶え絶えに涙をこぼします。その様子は宰相中将の目には悲しいけれど確かにもっともな事だと思えて、自分も耐え難く涙にむせんでいます。

    宰相中将は、「あぁひどいことだ。これも運命でしょう。それほどに思い詰めないでください。命さえ長らえれば、いつか父君のお許しもありましょう。妊娠中に亡くなる人は、罪もひとしお深いと言いますよ」と教え聞かせて、お湯までも自らすくって四の君の口に含ませますが、それでもなお四の君は息も絶え絶えなので、宰相中将が悲しみ辛がっている様子はどう言い表そうとしても言い尽くせません。

    「このくらいの病状なら、なんの不安があろう」といって、灯火を近く取り寄せてよく見ると、夜具にひそめようとする四の君の顔や手つきが、上品で愛らしいことはこの上ありません。この女性を死なせたらその悲しさは想像するだけでも辛いので、宰相中将は自分も同じように添い臥しています。

    【解説とツッコミ】
    ちょっと前まで、薫君を手に入れたら手のひらを返したように四の君に飽きていた宰相中将ですが、いざこうして四の君が両親に勘当され、息も絶え絶えになって苦しんでるところを見ると、情熱的な愛が蘇ってきます。

    講談社文庫版の全訳注を書かれた桑原博史さんは解説で、こういう所が宰相中将のいい奴なところだと書かれていますが、私にしてみたら、自分の浮気性を棚に上げて目先の情に流されやすいだけのダメ男という感想しかないんですが・・・


     

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