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    39.吉野山の宮の話〜40.さらに吉野山の宮の話

    • 2014.11.15 Saturday
    • 18:35
    JUGEMテーマ:古典文学

    39.吉野山の宮の話

    ここで話は少し横道にそれます。
    その頃吉野山に、現在の帝の祖父の第3王子にあたる宮がおられました。(つまり現在の帝の叔父にあたる)この方は万事において人並み以上の力量をお持ちで、世の人がやる事、例えば各種の学問・陰陽道・天文学・夢占い・人相見などといった事まで、その道の奥義を会得している才人でした。

    昔は遊学生といって、12年に1回中国の唐王朝にしかるべき人を派遣してあちらの学問を修得させていましたが、最近の人は根性が落ちて顔つきにも覇気がなくなってきており、唐に渡る人もすっかりいなくなっていました。しかしこの宮は、狭い日本にいるのはもったいないと「私がぜひ行きたい」と熱心にお願いして唐に行かれました。

    唐側では宮を歓迎して「これまでも日本の人はたくさんやって来たし、わが国にも賢い人は多いのだが、数々の学問の道にこれほど優れている人はいなかった」と賛嘆しました。そして唐の首席大臣は、この上なく大事に育ててきた一人娘の婿として宮を迎え入れる事になりました。ほどなくして、妻となった首席大臣の娘と宮との間には二人の娘が生まれましたが、その後その妻は亡くなってしまいました。

    宮は「この妻は日本人ではなかったが、心の通じ合わない人ではなかった。この国の中ではどうだかは知らないが、少なくとも日本で偶然見た帝の妃や娘たちと比べれば、これほどの容貌に恵まれた女性は見たことがなかった」と、心底妻のことを愛していて、日本に帰るつもりもなかったのですが、その妻に死なれてしまい、言葉では到底言い表すことのできないほど悲しみました。

    そして「このまま唐にいて、出家して隠遁もしてしまおう」とお思いになりましたが、妻の形見としてこの世に生きている2人の姫君たちと別れる事も悲しく、悩んでいるうちに妻の父であった首席大臣も悲しみから病床につき、寿命も尽きて亡くなってしまったので、宮は唐で頼りにする人も失ってしまったのでした。

    宮はこれ以上生き続ける気力も湧かないのに、時の大臣や公卿たちがまた「婿にしよう」としつこく宮に声を掛けてきます。しかし宮はもう再婚する意志も失せてしまっていたので、全くお聞き入れになりませんでした。すると、再婚を断られた相手が悔しさから宮を殺そうとしているという噂が入ってきました。宮はもう自分の命は惜しくはありませんが、とはいえ外国で空しく死ぬというのは残念に思います。

    「自分をこの上なく大切にしてくれて、自分もまた深く愛していた妻が生きていた時は、日本は遠い過去の世界であって忘れることもできた。でもこうして妻が亡くなってみると、やっぱり唐は生活しにくく恐ろしく、日本に帰りたい心がよみがえってきた。ただ、私の2人の娘たちを見捨てなければ帰れないというのがとても悲しい。
    その昔、ある女性を唐に船で連れて渡ろうとした男がいたが結局渡れなくなった事件があって、それ以来、唐と日本は女には行き来のできない道と聞いているが、連れて帰りたい気持ちはどうしようもない。
    もし船旅の途中で、船を停める海竜王でも出現したらすぐに私も道中で死ぬことになるだろうが、それでも惜しくはない」

    そう一途に決心して、亡くなった大臣の子に話を持ちかけて逃げるように帰国の途につきましたが、たまたま悪竜王もどう心を変えた時節だったのか意外にも船が停まる事はなく、望みどおりの風が船を送るように吹いてきて無事に帰国できたのでした。

    【解説とツッコミ】
    四の君の妊娠という序盤の一大事件が起こり、さぁ次はどうなる!?と読者は先が気になって仕方なくなった所で、筆者はいったん別の話を始めてペースを落ちつかせます。話の運び方が上手ですね。
    この吉野山の宮は今後の話のキーマンとなる人物で、彼との出会いが薫君の運命を変えていきます。



    40.さらに吉野山の宮の話

    帰国した宮は「私のみじめな経歴を失敗例として世間の話題にされたくない。唐の女の腹に子供まで生まれたそうだなどと噂されたくもない」とお考えだったので、2人の姫君たちを人目につかないように連れて上京しました。
    今はもう唐の大地は遥か遠くの世界となってしまいましたが、あの妻が火葬の煙となって立ち上った大空さえも遠くなってしまったのだと思うと、宮は今さらの事ながら悲しみに打たれつつ、こっそりとこの姫君たちを掻き撫でて気分を慰めているのでした。

    このように宮は、もう妻と呼ぶべき人を身近に置く気もなく、すっかり絶望して涙の日々を送っていたのですが、どういうわけか「この皇子は朝廷に謀反の心を持ち、自分こそ国王になるべきだと考えている」と讒言する人が現れ、宮は遠い山奥に追放されそうな情勢になりました。

    宮は夢のような思いでこの噂を聞くと、
    「原因は全て私が現世に俗人のままでいる点にある。私の心はとっくに現世を捨てて来世に向いているし、宮廷での政治など自分には不向きだと最初から分かっていた。それなのになお、姫たちの面倒を見つつ宮廷人として世間に関わろう、などと自分に不似合いな事をしてきたからこんな事になったのだ。何とか姫君たちが物の分かる程度に成長するまでは、と思って今まで過ごしてきたのは全くの失敗だった」
    と決心し、急に髪を下ろして出家されました。

    ちょうど吉野山の麓に風雅な領地があったので、どちらに行くのか他人には分からないようにして、宮は姫君たちを連れて吉野に引越しました。その後は、吉野山で鳴く鳥の声にも懐かしさを感じるほどこの土地での暮らしにも慣れて、訪問者もないまま、吉野山の峰の雪に埋もれたままでずっと暮らしていたのでした。

    宮は、姫君たちの容貌や姿が美しく、ちょっとかき鳴らす琴の音色も中国風の技法が感じられて人並み以上に優れているので、実にもったいないとしみじみ悲しく思っていました。
    宮自身は、自分一人でここからさらに山奥に入って暮らしたいと思っているのですが、こんなに素晴らしい姫君たちが、自分に知人がいないせいで、こんなにもったいない事になっている事を思うと、ひと思いに現世を思い切って離れることはできません。
    そんな宮の様子は、ずいぶんと煮えきらず度量が無いように見えるかもしれませんが、宮は「それでも自然に何とかなるだろう。姫君が人並みに、少しでも世間に出る機会はいつかきっと来るはずだ。」と心に深く予期していて、前世の因縁に結ばれた運命の人の登場を待つような気分でいたのでした。

    【解説とツッコミ】
    余談にしてはずいぶんと長く、吉野山の宮の身の上話が丁寧に描かれました。私も最初は、なんでこんなにこの吉野山の宮の話をダラダラと続けるんだろう。意味無いんじゃないか?と思ってたんですが、やっぱりこの説明は必要だと思います。
    宮がこういう身の上だという設定があるのと無いのとでは、その後の展開の中で宮や宮の姫君たちの心情を想像する際の深みが違います。

     

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