スポンサーサイト

  • 2016.04.30 Saturday

一定期間更新がないため広告を表示しています

  • 0
    • -
    • -
    • -

    46.宮の心〜47.松風の歌

    • 2014.11.24 Monday
    • 22:31
    JUGEMテーマ:古典文学

    46.宮の心

     あっという間に二・三日が過ぎました。
     吉野山の宮は、薫君の姿の素晴らしさや学識の無限の深さに感じ入って、仏前のお勤めも怠けがちになるほどでした。今では奏法が途絶えてしまった琴(きん)の琴の演奏を薫君が聴きたがっていたので、宮は深夜、澄みきった月光の下で演奏してお耳に入れたのですが、それは例の無いほど心に染み優美なものでした。

     宮が少しだけ演奏して止めてしまったので、薫君は楽器を取り上げてお弾きになったのですが、薫君はたった一回で調べを聞き取って完全に再現して演奏してみせて、その才能は恐ろしいほどでした。宮は

    「この後の演奏法は、至らない娘ではありますが、先日お耳に入れた私の娘たちに教えておきました。私は最近は楽器から離れてしまっていて、この吉野の峰の山風にすっかり耳が慣れてしまったので聞き違いもあるかもしれませんが、確かに彼女たちは間違いなく奏法を習得していると思いますよ。
    わざわざご訪問して下さったのはとても嬉しい事ですし、これで演奏を聞かせずにお帰しするわけにはいきませんね。」

    と薫君には言っておいて、次の日姫君たちのお部屋にお出かけになり

    「こういう方がご訪問下さってこの数日来滞在されているので、こちらでお話などして下さい。普通の人とは思えないご様子の方です。いきなり男性と直接お話させるなんて、ずいぶん急すぎると他人の目からするとおかしく見えるかもしれませんが、心配な点はなさそうですから」と言って、来客が来てもいいように辺りを整理して薫君をお迎えになります。

    暁近くなって昇った月に霧がかかってしみじみとした雰囲気になる時間帯、宮からのご案内があったので薫君は、なんともいえぬほど香をたきしめて、まばゆいほどの装束でお出かけになりました。端近くで物思いにふけっていた姫君たちは、とてもはにかんで奥に入ろうとするので、父である吉野山の宮は

    「ただ私の申し上げた通りにしなさい。この住まいは他人を迎え入れた事などほとんど無いから、何を今さら取り繕っても仕方ないし、世間並みにおもてなししようと背伸びするのも似つかわしくない。心配な事はないだろうから安心しなさい」と娘たちをなだめておいて、ご自身はあちらに行ってしまいました。

    【解説とツッコミ】
    絶対音感まで持ってる薫君。すげえなこの人、才能底なしだな。

    そして清らかな世捨て人のはずの吉野山の宮も、なんかすっかり舞い上がっちゃって娘たちを何とかして薫君に引き合わせようとしてる。
    いや、だから薫君は女なんだってば。それとも、とにかく薫君に娘たちを会わせておいて、後で薫君から別の素敵な男性を紹介してもらおうという魂胆か。

    この時代、女性の結婚に自分の意志は全く関係なく、地位の高い人と結婚できればイコール幸せという価値観の時代でした。そしてその幸せな結婚を勝ち取れるかどうかは、これまた自分の魅力とはほとんど関係なく、親や親戚、知人などの後見人がどれだけ政治的な力とコネを持っているかに掛かっていたのです。

    コネを持たない吉野山の宮にとって、薫君は天から降ってきた絶好の後見人です。かじり付いてでも手放さないぞと宮が血眼になるのも当然でしょう。



    47.松風の歌

    姫君のお部屋は少し奥に引っ込んだ小さな寝殿で、簡素な感じが趣を感じさせて、いろいろと心配りして暮らしている人の家だと分かります。建物の内も外もひっそりとして人の気配がせず、水に映った月だけが照り輝いています。
    「こういう所で、いつもしみじみと物思いをしておられる姫君たちの心中はどんな様子だろうか」と、薫君はとても気の毒に思いますが、一方で「性格が日本風ではなく中国風できっぱりとしていて、深い情緒などはご理解ならさないのではないか」などという想像もしていて、一層知りたい気持ちになります。部屋に入っても人の声がしないので、薫君は

     吉野山 憂き世背きに越しかども 言問ひかかる 音だにもせず
    (憂鬱な世間を離れるために吉野山に来たのに、ここでも問いかけても誰も答えてくれないんだなぁ)

    と詠み、「情けないことだ」と茫然とした風情で涙をこぼされます。
    都の人達でさえ薫君に恋い焦がれている人は前例の無いほど多いのに、ましてや普通の男でさえ見慣れたことのない吉野山の宮の姫君たちの心では、親しみやすく情緒がある薫君が嘆いている姿はどうしようもなく痛ましく思われます。
    姫君たちには返事を仲介してくれるような気の利いた侍女もいないので、恥ずかしく具合悪いと思います。かといって、このまま時間が経ってしまうのも不都合なので、やむを得ず姉宮の方が少し端近くに座る場所を移して

     絶えず吹く 峰の松風 我ならで いかにと言わむ 人影も無し
    (絶えず吹く峰の松風のように変わりない心でなければ、どうかと声を掛ける人もいません)

    と小さな声で歌を返しますが、そのほのかな気配が、たいそう上品でこちらが気おくれするほど趣があります。
    奥ゆかしさでいったら都でもこれほどの雰囲気を持つ人も珍しいと思われるので、薫君は「返事をしたのは姉妹のどちらだろうか」と知りたく思いましたが、はっきりしないままに

     おほかたに 松の末吹く 風の音を いかにと問ふも しず心無し
    (風はどの松の梢にも吹くものです。これは私に声を掛けてくれたものなのかが気になって平静ではいられません)

    と詠み返します。世間普通のような色恋沙汰めいた風ではなく、薫君はただしんみりと、ここを訪れた事情を心を込めて親しみをかき立てるようにお話しするので、姫君たちも少し慣れてこられたのか、時々は深くうなずかれます。
    その優美な人の気配や心遣いを見て取ると、薫君は「女の私ではこれ以上はどうしようもないけど、宰相中将がもしこの姫君たちの事を聞いたら、どれほど驚き熱中するだろう。こういう人がいるという話を宰相中将はまだお聞きになっていないのだろうな」と、自分の嘆かわしい身を振り返りつつも、ふと笑いが浮かんでくるのでした。

    【解説とツッコミ】
    薫君にしてみりゃ「私に一体何を期待してるんだ?」って感じでしょうねコレ。
    舞い上がっちゃってる宮に「さぁさぁとりあえず娘たちと会うだけ会ってみて下さいよ」と強引に会わされて、なんか普通に男女の色恋沙汰みたいにさっきから和歌のやり取りとかしてるけど、いや私、女なんだけどな・・・

    行きがかり上仕方なく男を演じながらも、そこでふと思い浮かんでくるのが女好きの宰相中将の姿。彼だったら大喜びなんだろうなぁ今の状況。でもそんな彼は姫君たちの存在を知らず、女に興味が無い私は知っている。
    ホント、世の中って上手くいかないなぁフフフ・・・

    最後に薫君にふと笑いが浮かんでくるというのは、そんな自嘲と諦めの笑いなんじゃないかと思います。

     

    PR

    calendar

    S M T W T F S
       1234
    567891011
    12131415161718
    19202122232425
    262728293031 
    << January 2020 >>

    mobile

    qrcode

    powered

    無料ブログ作成サービス JUGEM