95.尚侍の変身〜96.東宮との別れ
- 2015.02.22 Sunday
- 08:45
JUGEMテーマ:古典文学
95.尚侍の変身
光君は、直接御前に仕える侍女には繰り返し口止めをなさって、男物の装束を用意するよう母上にお願いしました。さらに、光君の乳母の子で、東宮の進という職を務めている親しい人を几帳の後ろに呼び入れると、長い髪をきっぱりと切って男性の普通の髪型に結い上げました。
その間、母上や乳母は「これは、どういうことか」と驚き騒ぎますが、そもそも男の方が本来の姿であり、これ以外の形がありようもないので、止めなさいと押しとどめる事もできません。
この世のものとも思われぬ立派な男姿になったので、周囲の人たちは「男に戻ろうとご決心されたのは、いい加減な気持ちではなかった」と和む気持ちになりましたが、そう思ってしまうのは浅ましいような気もする何とも複雑な心境でした。
烏帽子をかぶり、男物の普段着を着るのも、初めてだとは全く思えないほどなじんでいます。その物慣れた様子は、失踪された薫君にただ一点として違うところもありません。それぞれ男女の格好でいた時も、顔は全く1つのものを2つに写しただけと思えるほどそっくりでしたが、同じ男姿になると、いっそう薫君が帰ってきたようであまりに不思議で、
「このお姿を父君に早くお見せしたい。奇妙ながら今まで女性としてお過ごしだったが、それでもお育てしてきてよかった。薫君だといってこの人を会わせ申し上げたならば、父君のためにはどれほどうれしく良いことでしょう」
と、母上も乳母も、かえってうれしい気がして、嘆く心も慰められたようです。
光君は「決して、私の不在を嘆き、いつにない様子を他人に見せたり知られたりなさらないように。ただいつもどおりでね」と繰り返しお命じになります。
【解説とツッコミ】
ホントどうしちゃったんだ光君!まるで別人のような男らしさ!
そしてその姿は、男姿だった頃の妹の薫君にそっくり。
修復不能なまでにこじれまくった事態に、少しずつ光が見えてきました。
96.東宮との別れ
光君は「薫君を探し出さねば、私も人の世に帰るべきではない」と決心しましたが、そうなると親たちの事が気がかりなのは言うまでもなく、朝な夕なお仕えして慣れ親しんでいた女東宮が「もしや妊娠なさったのではないか」と見える状態なのに、それを見捨てなければならない悲しさは言いようもないほどです。
その悲しさが我が身を今の生活に引き留める力となるような気もしますが、光君は女東宮に手紙で
「父君がたいそう危うい病状になられましたので、再びお側に参ることができる日がいつになるのかが判断しかねるのが辛い事です」などと精一杯に書いて
あはれとも 君しのばめや 常ならず 憂き世の中に あらずなりなば
(もし私がこの無常で憂鬱な世の中から居なくなったら、悲しいとあなたは私を偲んでくれますか)
と申し上げます。女東宮のお返事も実にしみじみとして
君だにも あらずなりなば 世の中に 留まるまじき 我が身とを知れ
(あなたがもし居なければ、私の身もこの世に留まることはないという事を分かってください)
とお書きになります。光君はその手紙を食い入るように見て、それをそのまま紙に挟んでお持ちになります。
【解説とツッコミ】
あなたは女東宮のこと、覚えていますか?
最後に彼女が登場したのは「18.院の望み〜19.姫君の出仕」の回。実に77回ぶりの再登場です。
すでに記憶も曖昧になっていると思うので再度ご説明しておくと、今の帝に男児が生まれなかったので、彼女は女ながら皇太子(東宮)の位についています。そして、そんな女東宮の遊び相手&後見役として、外見は女性である光君が選出されて、女性としてお仕えすることになりました。
二人はすぐに仲の良い女友達になり、毎晩のように仲良く添い寝しておしゃべりなどをしていましたが、そんな生活の中でムラムラと男の本性が隠しきれなくなった光君は、早々に自分が男である事を女東宮にバラしてしまいます。
しかし女東宮はそれを問題視する事はなく、むしろ見た目は女同士なため誰にも怪しまれず添い寝ができるという絶好の環境をいいことに、秘密の男女関係を続けます。(そこいらへんは本文にはハッキリと書かれていないので想像で補うしかありませんが)
そして今、そんな女東宮が妊娠したかもしれないという状況がここで初めて明らかになります。
サラッと書いてるけど、これ大スキャンダルよ?結婚前の皇太子を妊娠させちゃったんだから。
これも一体どうやって収拾つけるんだ!?
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