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    110.秋の夜の対面〜111.尚侍の知恵

    • 2016.03.27 Sunday
    • 06:50
    JUGEMテーマ:古典文学

    110.秋の夜の対面

    運の良い事に、宰相中将は出産を目前とした四の君の体調がすぐれないために混乱しきっていて、宇治には帰ってきません。薫君は若君の乳母に

    「私の兄にあたられる方が密かに会いに来られたので、人にも知らせずこっそりとお会いしたいと思いますが、利口ぶっている誰かが告げ口して宰相中将様がこの事をお聞きになってしまったら辛いです。人には様子を知られまいと思っているのです」

    とご相談になります。 乳母は「たやすい事でございます。京からやってきた使いのように装って、私の私室に夜にまぎれてお呼びして、夜が更けてからお会いなされませ」などと申し上げると、薫君は「それではそうしましょう」とおっしゃります。

    好都合なことに、同じ屋敷で暮らしている宰相中将の乳母の子とは打ち解けていないので、宰相中将のおられない時は、特に薫君の御前にいるわけではありません。
    忍び込みやすい夕暮れにまぎれて、回廊の前にある乳母の私室に光君をお入れ申し上げて人々が寝静まるのを待つうちに、夜もたいそう更けると屋敷の者たちはみな寝てしまいました。そこで乳母を案内役として薫君を西の離れにお連れすると、ようやく出会えた光君と薫君はお互いに夢のようで、物を申し上げることもできないでいます。

    月の明るい光に、薫君の髪はつややかに隙間もなく垂れ、この上なく愛らしくて素晴らしい様子です。薫君が懐かしさに泣いているのを見て、光君は「いやはや、これは一体誰かというくらいの変わりようだ」と思っています。その光君も、何ともいえず清らかで優美な男姿に変わっていて、共に現実の事とは思えません。

    光君は薫君に、行方も分からないとお聞きしてから考えた事、京を出てきた事、以前何も知らずにこの屋敷の前を通りがかり、妙に似ておられる人がいるなぁと思って我慢できず、もしかしたら何か知っている事もあるかもしれないと、夢中で姿を見せようと出て行ったことなどを細かにお話します。

    「それにしても、どうしてこのようにしておられるのか」

    と光君はお聞きになりますが、薫君にとってそれはお答えしようもないほど恥ずかしい事でした。けれども、格好をつけて隠しておくべき事ではないので

    「この何年か、世間普通ではない自分の体の有様を嘆きつつ、どうしよう、それでもこのまま行くほかないなと思っていましたが、心外な辛い事が起こりましたので、このままいるわけにもいかず、考えあぐねて身を隠してしまいました」

    という事情をほんの少しおっしゃりました。光君は「多分そうだろう」と納得なさって

    「それでは、とりあえず今はこのままの姿でおられるべきでしょうが、こんな風に人に知られぬ場所で、どうやって生涯暮らすことが出来ましょうか。父君にはどう申し上げますか?」

    とおっしゃります。薫君は

    「その通りです。決してこのままではいられないとは思います。風変わりな男女逆転の姿であった事が恥ずかしいので、他人に見られ世話をされたくはありません。
    女である事を知られてしまったので、宰相中将には仕方なく一途に身を任せてきましたが、このままずっと生き続けていくのに、このままではいけないとは思っています。そうかといって、以前の男姿に身を変えることはよろしくありません。
    どちらにせよ、風変わりな身の置き所がなくて困っています。いっそ、あの吉野山で出家して跡を絶とうと思っています」

    と泣きながらおっしゃいます。

    【解説とツッコミ】
    すれ違いの末に、やっと涙の兄妹ご対面!長かった!
    今まで一人で悩み続けてきた薫君ですが、やっぱり相談できる相手がいるって事はとても幸せですね。
    薫君にとって光君は、自分と同じ悩みを抱えた、人生で初めて出会えたまともな相談相手。おそらく今までの心労とか苦労とか、諸々を全部吐き出してとても気が楽になったのではないかと思います。

    そして、妹と違ってあっけらかんと男女逆転ライフを満喫してきた光君から、前代未聞の提案があります。
    まあどんな提案なのか、何となく想像つきますね。



    111.尚侍の知恵

    「薫君、そういう事をおっしゃいますな。父君、母上のおられる限りは、私もあなたもこの世を見限ってはなりません。あなたの失踪により、父君が茫然自失の体になられたのを見て私は出発してきました。父君が悲しんでいるのに、なぜこのように忍び隠れておられるのですか?
    ただ、また男姿に戻って名乗り出るのは色々と具合が悪いですね。幸い私の方は、私が居ない間も、さも私がそこに居るようにふるまってくれと言い残して出てきましたから、女姿の私が居なくなっている事は誰も知りませんし、顔が瓜二つの私とあなたの違いを見分けられる人はいないでしょう。
    ですので、私の居場所にあなたがそのままお入りなさい。そうした上であなたの所に宰相中将が通うような形にしたら、それは別に悪い事ではない。今新しく二人が付き合い始めたように振る舞えば不自然な事ではないし、かえって人目も安心というものでしょう。」

    そう光君は提案しますが、薫君は躊躇してなかなか回答しようとしません。しばらく黙った後で、薫君は

    「宰相中将には、行方を知られないでいたいと、思っているのです」

    とつぶやきました。光君は
    「それはいけません。宰相中将のお人柄は確かにああいう風なので、実際のところ際立って素晴らしいとはいえないけれど、とても身分の高い方で、その方を捨てるなんて事はすべきではありません。ただ、あなたが本当にそうお思いなら、まずこっそり入れ替わるようにしましょう。父君にも何かご意見があるかもしれませんから、それを伺ってからその後どうするかを考えるのがいいと思います。」

    と申し上げますが、薫君は
    「父君にも、こういう生活だったとは知られたくないのです。ただ世間普通でない身を持て余していたという風に」
    と恥らうばかりで、何年間も男の姿で暮らして、きっぱりとした性格だった人の態度とも思えません。

    話は尽きないのに夜も明けてしまいそうなので、光君はそっとお立ちになってその足で京に行かれます。その折にも光君の脳裏には、もう最後と決心して京を離れた時の感慨深い記憶が思い出されてきます。光君は父君の元に向かいますが、その事を事前に父君には知らせていません。

    【解説とツッコミ】
    さあここから、前代未聞の兄妹すり替わり作戦が発動です。ワクワクしますな。
    光君の方は最初、宰相中将にはこのすり替わりを伝えるつもりだったんですね。でも、散々痛い目を見せられて出家寸前まで追い込まれた薫君の方は、あんな奴と今後も付き合うのは嫌だと断ります。
    しかし、中身は違くとも二人の男女は今までのように何事もなく宰相中将の前に存在するわけで、宰相中将の混乱する顔が目に浮かびますね。ワクワクします。

    それにしても「宰相中将の人柄はいまいちだけど、身分が高いから捨てるのはやめとけ」という光君の身も蓋もない意見が、平安時代の恋愛観をよく表しています。結婚や恋愛に関して、その人自身の性格なんてどうでもいいんです。身分が高い人と恋愛したり結婚できたりしたら、たとえ相手がどんなクソ野郎だったとしても、もうそれだけで幸せ。当時は、それが疑問を抱くまでもないごく当然の常識だったんですね。

     

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