スポンサーサイト

  • 2016.04.30 Saturday

一定期間更新がないため広告を表示しています

  • 0
    • -
    • -
    • -

    112.左大臣の夢〜113.若君とわが身と

    • 2016.04.09 Saturday
    • 23:23
    JUGEMテーマ:古典文学

    112.左大臣の夢

    左大臣は、月日が足早に過ぎ行く中、多くのご祈禱を山々寺々に尽くして、もう最後と諦めかけておられたところに、その日の夜の夢にたいそう尊く清らかな僧が現れてこう告げました。

    「そのようにお嘆きなさいますな。ご心配事は無用だと、明朝にでもその知らせをお聞きになることでしょう。
    前世でちょっとした食い違いのあった報いとして、天狗が、男は女にして、女は男のようにして、あなたのお心に絶えず嘆きをもたらしたのです。その天狗も、長年の多くの御祈禱の霊験のおかげで、仏道でいう劫が尽きた段階に達しました。これからはみな事が正常におさまり、男は男に、女は女にお戻りになって、思い通りに栄えようとなさっています。こうお悩みであったのも、ちょっとした前世の報いなのです。」

    この夢を見た左大臣は、光君の母君のところに行って
    「そういえばこの何ヶ月か、気が動転していて光君の姿を見ていなかったよ。今、こんな夢を見たんだ」
    とお話になるので、母君はびっくりしてしまいます。
    そこで、光君が薫君を探しに行った事を詳しく申し上げると、「夢は、本当だった」と嬉しいものの、「光君まで世間に出て行ってしまった事を、自分が何も知らないでいるとは」と驚きあきれておられます。

    次第に夜明け方になったと思う頃、光君の母君のそばに侍女が寄り、光君が戻ってきた事をささやき申し上げます。それを聞いて母はこれまた驚いて「夢はまるで合わさったようですね」と左大臣にお知らせします。

    人々はまだ寝ているので、「こちらに」とおっしゃって光君を近寄らせます。
    「幼かった頃から宮廷に出仕なさっていた薫君は美々しかった。光君はか弱くて人にも顔を見せず、籠っておられた人だ」と思うので、「男姿となってもぎこちなくておられるだろうな」と左大臣は想像していました。しかし、光君が御前においでになったので、左大臣が起き上がって灯火をかき立ててご覧になると、ただもう薫君のお美しさや姿を二つに写し取ったようです。

    光君は、薫君よりもう少し上背があって優美な雰囲気が勝っておられます。薫君は少し小柄だったのが欠点で、でもまだ年が若かったので許せていましたが、光君はもう少し威厳があって、何の欠点もないように見えます。

    薫君にそっくりな光君の姿を見ると夢のようですが、それを見ても、行方知れずの薫君の事がまず我慢できず思い出されてきて、右大臣は声も惜しまずに泣いてしまいました。やっと気分を取り直して、

    「それで、薫君は何と言っておられましたか」
    とお尋ねになります。

    「以前の男姿ではなく、女姿になっておられました。やはり世間普通ではなく辛かったので、本来のように姿を変えてみようと、しばし隠れていたとの事です。髪などが生えそろうまで、人に見知られたくないとおっしゃったので、お考えに従って私だけ帰ってきました。」と光君はお答えになりますが、左大臣は「それでどういう風だったか」とお聞きになるよりも前に、「夢のお告げは正しかった」と、喜びのあまりうれし泣きまでなさっています。

    「よいよい。薫君を尚侍にしようと申し上げてくれ。あなたが右大将の代わりをしなさい」
    と左大臣がおっしゃると、光君は

    「長年、あんな風に引き籠っていた私ですから、そういう宮廷での交際をする事は、すぐには難しいです。また薫君の様子をよくお伺いして、かつて男姿であった事を人に見知られぬようにしましょう。まず薫君をお迎えしてから、その後で色々と処置する事にしましょう」
    と言って、夜が明けると屋敷をお出になりました。
    晴れ晴れと胸も開いて嬉しいので、左大臣は病床から起き上がって、お粥などを少しお召し上がりになります。

    【解説とツッコミ】
    今まで読まれてきた方には十分お分かりかと思いますが、当時の社会通念にLGBTへの理解みたいなものは一切ありませんので、男女逆転は「異常」とバッサリ切り捨てられます。この兄妹の男女逆転も、前世の行き違いによる天狗のしわざという事になります。で、それも加持祈禱で全部解決できてしまうという、仏への信心が万能の時代なんですね。

    それにしても軽いなぁ左大臣。この物語の中で、一番お気楽で一番得してる強運の持ち主は左大臣だよ。



    113.若君とわが身と

    光君から宇治の薫君には、何日頃にこっそりお迎えに来るとお知らせ申し上げました。薫君は、あの日の光君との対面の名残も悲しく、夢のようにお感じです。
    こんな状況になってしまうと、生まれたばかりの宰相中将の子、若君の存在はもはや不都合なものでしかないという事を、薫君は理解しています。若君を連れていく事は許される事ではなく、そうかといって見捨てる事も悲しくて薫君は苦しんでおられますが、親子の絆は絶えないものと信じて、それに期待しています。

    「生きてさえいれば、この子とも行き会って顔を見る事ができる時が来るかもしれない。たとえこの子が可愛いからといって、あれほど世間に評判の高かった私が、人には言えない後ろ暗い境遇のまま、こんな風に男の通ってくるのを待つのを楽しみにしながら生涯を過ごすような事があっていいはずがない」と、やはり過去に男装なさったほどの御気性の名残があるのか、強く決心しておられます。

    今までに書いた見苦しい下書き文などを、さりげなく引き破り燃やしなどなさってひそかに出発の準備を進めつつ、若君を目を離さずご覧になれば、たいそう愛らしく、次第に声を上げて人の姿を見守って笑みを浮かべたりするようになってきたのを見ると、薫君は悲しくてならないのでした。

    【解説とツッコミ】
    この「とりかへばや物語」は作者不詳なんですが、たぶん女性が書いたんだろうなと私は推測しています。その理由は、宰相中将と薫君の間に生まれたこの不幸な生い立ちの若君の事を作者はとても気遣っていて、この後も、この子供に対する薫君の悲しみと愛が何度も何度も書かれるからなんです。
    正直、男の場合こういうのに結構薄情なもので、もし男性が作者だったら、たぶんこの子の事にはそんなに深く触れずに、その後もほとんど登場せず終わるような気がします。
    でも、この若君の事を大切に書き記した事で、この物語を読んだ後の余韻と後味はとても複雑で素晴らしいものになっています。

     

    スポンサーサイト

    • 2016.04.30 Saturday
    • 23:23
    • 0
      • -
      • -
      • -
      コメント
      コメントする








          

      PR

      calendar

      S M T W T F S
      1234567
      891011121314
      15161718192021
      22232425262728
      293031    
      << December 2019 >>

      mobile

      qrcode

      powered

      無料ブログ作成サービス JUGEM